異空間の出現ー作品展「漆黒の紅蓮」
9月7日から、ふみの森もてぎの3つのギャラリーを会場に“2018もてぎの秋の作品展「漆黒の紅蓮(しっこくのぐれん)」”が開かれ、多くの入場者でにぎわっています(9月24日まで)。これは茂木町を拠点に活動している造形芸術家の団体・茂木作家協会が主催し、その国際色も豊かなメンバーとゲスト、16人の作家のみなさんが創作した陶芸・木工・漆芸・版画・絵画などの展示です。
作家協会の代表・松崎融(まつざき・とおる)さんは、展示タイトルについて次のように述べられています。美術工芸をとりまく状況が厳しい中、工芸の伝統をもたない「この町に暮らす作家達は、まさに「闇」の中に居る」、しかし「闇は創作の原点でもあり唯一の武器でもあり」、この「闇を逆手に取り、小さくとも反逆の烽火(のろし)をあげ、紅蓮に立ち上る焔(ほのお)として育てていくことが必要」である……。言葉のとおり、大小50余りの多彩で意欲的な作品群は実に見応えがあります。
ところで、個々の展示作品もさることながら、訪れた人たちにインパクトを与えているのが、主会場であるギャラリーふくろうの空間そのものです。「ふみの森ではないみたい」「別世界に来たようだ」といった感想を耳にしました。幕末の日本酒仕込み蔵を再現したギャラリーふくろうは元々ふみの森の名所(?)なのですが、ここが今回の展示でさらにユニークな空間に変身しているのです。
照明を抑えた薄暗い室内は「闇」を感じさせ、投射された何本かの光線が、梁から吊るされた多数の書作品の白い和紙と周囲の壁面に、燃えさかる「焔」の映像を映し出しています。BGMには、オーストラリア先住民の管楽器とチベット仏教の鈴(りん)による土俗的・呪術的印象の音楽が流れ、幻想的効果をさらに強めています。この空間演出は作家協会に属する写真家・板谷秀彰(いたや・ひであき)さんの企画・構成によるもので、ふみの森に出現した異空間はそれ自体がまさに「漆黒の紅蓮」を表現するアートなのです。
一昨年のオープンから2年余り、ふみの森もてぎはおかげさまで多くの来館者をお迎えしていますが、木を多用した内部空間、図書館天井の独自工法、古い蔵の再現・復元など、建物の特徴が好評のようです。知ることも、見ることも、聴くことも、たいていのことはインターネットのバーチャル空間で済んでしまう時代かもしれませんが、私どもは体感できるリアルな空間としての図書館やギャラリーの意義を大事にしたいと思っています。それを最高のかたちで実現してくれた作品展「漆黒の紅蓮」、皆様のご来館を心からお待ちしています。