森を語る
初代館長関誠二氏が、ふみの森に寄せる思いを語ります。
「コロナ」の時代を超えて
ふみの森もてぎは3月7日から臨時休館になっています。いうまでもなく新型コロナウイルスによる感染症拡大を防止するための対応です。現在、国内の多くの公共施設が同様にやむをえざる選択を強いられています。今年初め中国で新型の感染症発生が伝えられた頃、それは文字どおり対岸の火事のように思われましたが、病は瞬く間に全世界にひろがり、いまや人類を脅かすパンデミックとなってしまいました。当館は4月から再開する予定ですが、今後の成り行きは予断を許しません。
このような折に個人の身の振り方に属することで恐縮ですが、私(関)はこの年度末をもってふみの森もてぎの館長職を退任させていただくことになりました。当館の発足からまもなく4年、多くの皆様のご支援・ご協力のおかげでなんとか任務を遂行してまいりました。まだ残された課題も多く、力が及ばなかった点もあり心苦しい限りですが、ここを一区切りとしてふみの森の今後の発展を後任の館長と新年度のスタッフに託したいと思います。
さらに個人的な思いを述べさせていただければ、私は昭和の高度成長期より前の時代にこの町に生まれ、高校を卒業するまで、けっこう賑やかで子どもの数も多かったまちなかで育ちました。その後は故郷を離れた暮らしが長く続き、茂木は「遠きにありて思うもの」となっていました。しかし人生何が起こるかわからないもので、中心市街地拠点施設(当時の名称、現・ふみの森もてぎ)の立ち上げに参画することになり、5年前、45年ぶりに茂木に居を移しました。以来これまでの日々は、私にたくさんの「茂木再発見」の機会を与えてくれました。茂木の自然・歴史・文化をあらためて身近に知り、感動を覚えるとともに、それがふみの森での仕事につながったのは実にありがたい経験でした。
ふみの森について振り返れば、図書館の設置や市街地の活性化を願う町の民意を、町長がよく酌んで建設を決意し、立案・設計・施工・整備に関係者が創意を凝らしました。開館後は多くの人々が好意的にこの施設を迎え、また熱意をもって展示やイベントに関わってくださり、さらには羽石光志作品や茂木文書をはじめ数々の資料の厚意ある寄贈も受けて、現在までふみの森は生長してきました。人口減と少子高齢化の厳しい状況下でも、町と町の人々が文化への志と意欲を失なうことなく、茂木の未来のために強い意志をもって、ふみの森を創り、育てていくことには大きな意味があり、またふみの森の存在意義もそこにあるのだと思います(以上「意」を尽くせたでしょうか)。
この連載の第1回のタイトルは「『配信』の時代に」というものでした。膨大なデジタル情報がオンラインで配信される時代に、ふみの森もてぎは人々が実体あるモノとしての図書館資料や展示作品に出会い、また人と人が出会い交流するリアルな空間となることを強調しています。これに対して、今回の未知のウイルスは人と人を分断し遠ざけようとしているかのようです。人類はいつかこの疫病を克服するはずですが、そこまでの道のりは長く困難なものになるかもしれません。社会や文化、人と人のコミュニケーションも変容していくでしょう。しかしどのような時代になったとしても、茂木町という地域は存続し、ふみの森の施設と機能は決して「不要不急」にはならないはずです。ふるさとと森の未来を信じたいと思います。
最後に、今日までお世話になった多くの方々、ふみの森もてぎを訪れ活用してくださった町民と利用者の皆様、そしてこの連載に目を留めていただいた各位に、心から感謝を申し上げます。ありがとうございました。
(2020年3月31日)
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文化の「地産地賞」ということ
昨年(2019年)の11月29日から12月15日まで、ギャラリーふくろうで開催された「長谷川隆 水彩画展」は、訪れた人たちに静かな感動を呼び起こす展覧会だったと思います。茂木の里山と田園の風景画を中心に長谷川隆さんが旅をして描いた全国各地の風景画も展示され、そのどれもがやや淡い色彩とやわらかく繊細なタッチの美しい作品で、観ているとどこか懐かしく心が和んでくるようでした。しかも一見似たような風景が季節や時間帯によって微妙に描き分けられていて、実に多様な作品世界がひろがっていました。自然豊かな茂木町に、また「ふるさと」をテーマの一つとするふみの森に、まさにぴったりの展覧会でした。
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ふみの森もてぎ、満3歳になりました
「森を語る」前回は今年2月でしたのでかなり間が空きました。5月には天皇の代替わりと改元があり、時代の節目を経てふみの森もてぎは先日開館3周年を迎えました。この間ふみの森では、3月末に『ふみの森もてぎ叢書』を新たに刊行し、平成の終わりから令和の幕開けに「羽石光志歴史画展」、開館3周年を記念して「金子節子原画展」と特別展「茂木文書の世界」を開催しました。この連載が休筆状態にならざるをえなかった出来事を振り返ってみます。
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