楽は蔵に満ちて 

図書の分類の話、まだ終わっていませんがここで1回休んで、去る11月3日、ふみの森もてぎのギャラリーふくろうで開かれたコンサート「フルートとチェロの調べ」について書きたいと思います。秋晴れの文化の日、茂木では「もてぎフェスタ2017」と銘打って、「里山ウォーク大会」「うまいもの市」「JAまつり」が同時に開催され、町は大いににぎわいました。コンサートはフェスタの一環として企画されたもので、茂木町出身で町の「ふるさと応援大使」を務めてくださっている栗田智水(くりた・ともみ)さんのフルートと、独奏・室内楽・オーケストラの各分野で大活躍中の金子鈴太郎(かねこ・りんたろう)さんのチェロという、まことに豪華な協演が実現しました。 

コンサートは、エルガーの「愛のあいさつ」に始まり、J.S.バッハ、モーツァルトからピアソラまで、卓越した演奏による名曲の調べが「ふくろう」の木の空間にやわらかに響き、聴衆はクラシック音楽の醍醐味を堪能しました。演奏の素晴らしさはもとより、お二人とも気さくでフレンドリーな雰囲気で、軽妙なトークも会場を和ませていました。金子さんはチェロについてわかりやすく解説したあとで、プログラムにはない現代曲、ジョヴァンニ・ソッリマの「アローン」の独奏も披露してくれました。 

この日、ふみの森の駐車場や周辺道路はフェスタの会場の一つでしたので、そこで開かれたご当地アイドルや和太鼓のパフォーマンスの音響が建物内に響いてくる場面もありましたが、栗田さんは「アイドルや太鼓に負けずにやりましょう」と明るくいなして、すてきなコンサートは無事終了しました。厳粛なクラシックのコンサートとはだいぶ趣の異なる、人の出入りとざわつき感のある音楽会でしたが、お二人の寛大さにも助けられて、まさに音楽という芸術文化を通じてまちなかに交流が実現したひとときでした。 

ふみの森もてぎの敷地には、元禄16年(1703)創業の日本酒蔵元「島﨑泉治商店」がありました。現在、ふみの森もてぎの建物を北側駐車場から眺めると切妻屋根の蔵が連なっているように見えますが、これはこの場所の歴史をしのばせる設計上の狙いによるものです。なかでも、ギャラリーふくろうは、弘化3年(1846)に建てられ最近まで酒造りに使われていた仕込み蔵を解体し、柱や梁を再利用して復元した木造の建物です。歳月を経た木材が支える高い天井と木造建築の空間によるものか、フルートとチェロの楽の音は、私の「素人耳」にもやわらかく、ふくよかで豊かな響きと感じられ、このギャラリーはアートを観るだけでなく、室内楽などを聴く場としても活用できるという思いを強くした次第です。日本の名指揮者・朝比奈隆(1908-2001)の著書に『楽は堂に満ちて』という随筆集がありますが、穏やかな秋の午後ふみの森では楽が藏に満ちていました。

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