〈4〉彼岸花をみる
9月17日(土)からの3連休、城山公園で恒例の彼岸花まつりが開催されます。中世に茂木氏の居城があった城山は市街地の北にそびえ、頂上一帯が公園として整備されています。古くから春は桜の名所として親しまれてきましたが、近年はこの時期40万本の彼岸花が緑の山腹を鮮やかな赤で彩るようになりました。彼岸花まつりとともに茂木ではさまざまなイベントが企画され、ふみの森もてぎも会場の一つになっています。
今回はふみの森の図書館にある彼岸花を紹介したいと思います。といってもそれは本物の花ではなく、DVDの映画作品で、1958年の松竹映画、小津安二郎監督『彼岸花』です。小津安二郎(1903-1963)は日本映画草創期からのベテラン監督で、家族、とりわけ親子関係を中心的テーマとして独特の映像世界を創造し、没後その評価は世界的なものとなり現在に至っています。
『彼岸花』は小津の円熟期ともいえる晩年の三部作の最初の作品(他は『秋日和』、『秋刀魚の味』)で、小津にとって初のカラー作品でもあります。物語は、会社役員の夫(佐分利信)と妻(田中絹代)が適齢期の娘(有馬稲子)に良縁の見合いを用意していたところ、娘に恋人(佐田啓二)がいることがわかり、父と娘の関係がこじれてしまうが、さまざまな出来事を経て最後は父が娘の結婚を受け入れるまでをコミカルに、またしみじみと描いています。
もう60年近くも前の映画で、時代の違いは随所に感じられますが、丁寧に撮られた日本家屋の室内を背景に、家族間の心理や感情、人生の哀歓が今を生きる私たちの心に静かに伝わってくる名作といえます。ちなみに作中に彼岸花が映るシーンはありませんが、タイトルや出演者の字幕の一部に用いられた赤い文字、小道具の赤いヤカンやハンドバッグなどが彼岸花の色を象徴的に表現しています。
ふみの森もてぎ図書館には現在、劇映画、アニメ、ドキュメンタリーなど、568点のDVDがあり、CDと併せて一度に5点まで借りられます。映像作品は著作権法の規定により市販のDVDのすべてが図書館の資料にできるわけではなく、購入価格も市販価格の数倍になり、どんどん増やすことは難しいですが、小津安二郎に代表される“映像の無形文化財”のような作品は積極的に収集したいと思っています。
よろしければ城山で彼岸花を見て、ふみの森の『彼岸花』を観てください。
<ふみの森の『彼岸花』以外の小津安二郎作品>
『晩春』(1949) 『麦秋』(1951) 『東京物語』(1953) 『早春』(1956) 『お早よう』(1959) 『秋日和』(1960) 『秋刀魚の味』(1962)